国別対抗観戦記

twitter にもあげたけど;

会場で見ると、スケーティングスキルの差というものが如実にわかる。以下、現地で観て感じた雑感など:

  • スピードがある、伸びがあるというが、これは単に瞬間速度的なものだけではなくて、一歩あたりで進む距離の長さ、初速、そして初速が減退しないことなどを含める。チェンジエッジ、ターン、ステップなどで滑走エッジが変化しても、エッジが詰まることなく滑らかに推進し、むしろ加速する。野球のピッチャーでいう、キレがあり手元で伸びる投球に相当する。
  • そしてエッジの安定性。長いストロークの間、エッジがふらつかず安定し続ける。ターンをしても、上体の動きと連動し滑らかに素早くエッジが変わりスピードは持続する。逆にスケーティングの甘い選手は、始終エッジがぐらつき、ターンの度ごとに減衰していく。
  • エッジの深さ。スケートは、弧を描く種目である。滑らかで安定したRで弧を描き、チェンジエッジでまた同じように弧を描く。ロッカーできれいなS字を描く。

この点から見ると、アイスダンスのトップ選手、とくにメリルチャーリ組は群を抜いて素晴らしい。アイスダンスは、ジャンプや高く上げるリフトなど派手な要素が少ない分、スケーティングの美しさがより浮き出る。滑らかに安定して深いエッジでしかも二人揃って円弧を描き続ける様は、まさに感動ものだ。

テレビだと、どうしてもカメラは選手を追う、つまり選手の進みに合わせてスコープも動いてしまうため、あくまで部分の切り取りでしかなく、リンク全体に対して選手がどのように滑っているのかが捉えにくい。それに対して会場だと、リンク全体が視野に入り、その中での選手の動きが克明に分かる。

滑走順の若い選手、例えば男子ロシアの選手などは、どうしてもスピードが持続しない、ターンの度にグズる、フリーレッグの所作の美しさにかける、などがやはり目に付く。レイノルズも、ジャンプや上体の動きはいいが、やはりスケーティングという観点から見ると、やはりまだまだ甘い。今まで、レイノルズ君はPCSが貰えないなーとボヤいていたものだが、確かに差は歴然としてある。佳菜子は、あの蹴り足はサテオクとしても、ターン時やループの後など若干詰まって前傾になってしまったり、前へ向くときにガリっちゃったりすることころが目につき、まだまだ改善の余地は多いと思う。正直、ちょっとPCSは貰い過ぎな気がする。

上位選手は、例えばストロークからスリーターン、キャリイングでバッククロス、フォアアウトに抜けてクロスからロッカーでS字、という基本の動きでも、ひとつひとつの動き、伸びが素晴らしく、魅了されてしまう。上述のメリルチャーリ組を筆頭としたアイスダンスの選手たち、大輔、Pチャン、アボットコストナー、ワグナー、明子あたりは、やはり別格である。

  • 大輔は、、、、もうこれは絶賛するしかない。スケーティングの確かさ、音楽と調和した緩急のある動き・振り、醸しだす雰囲気、、、など、讃える言葉が見つからない。
  • Pチャンのスケーティングは、さすがに逸品だったが、おそらくもっと素晴らしいはず。万全な状態での滑りが見たかった。
  • 小塚は、足元の技術とスピードは確かに素晴らしい。だが全体として雄大さが感じられずこじんまりとした印象。表現、調和、緩急をもっと磨いてほしい。
  • アモディオは、体を絞ったからなのか、動きが滑らかでジャンプのキレも良かった。ネタキャラ的なイメージが強いが、スケーティングも思ってたより全然いい。
  • ゴールド、若く素晴らしい選手だ。スピードもあり、ジャンプの軸も細い。ジャンプ後のチェックが申し訳程度だったり、若干動きがせせこましいところがあるので、伸びやかで優雅な動きを身につけるなど、伸びしろは大きい。

とかくジャッジ、とくにPCSの採点に関しては文句や疑義が生まれがちだが、会場で生で/より近くで見れば、その優劣は如実に現れることが分かり、採点は概ね納得できる。不満や陰謀説を唱える方には、ルールの研究とともに、目前で観戦することをおすすめする。

さて、これらを自分のスケーティングに活かすとすれば、、、、やはり、個々のエレメントの練習も必要だが、それ以上にスケーティングを磨くことが何より重要である。基本となるストローク、クロス、ターン。極限すればこれだけでも人を魅了できる。ひとつひとつの動作を丁寧に美しく、柔らかく膝を使う、ぐらつかず安定してエッジに乗る、フリーレッグを足先まできれいに伸ばす、、など。基本がいかに重要かを再認識させられた。

アイスダンスのスケーティングの素晴らしさ

今回の大きな収穫の一つに、アイスダンスの素晴らしさを認識できたことがある。今までは、正直ジャンプも高いリフトもなくただ滑ってるだけの地味ーな競技、という印象があったが、とんでもない。これほどスケーティングの美しさを魅せてくれる競技はない。

アイスダンスの選手に比べると、シングルの選手達は、概してスケーティングが荒い。エッジの乗り具合もそうだが、特にフリーレッグの処理がいい加減なのが目に付く。アイスダンスにはパターンというものがあり、男女それぞれの動きとともに、フリーレッグの位置も決められている。これを守らないとエッジ同士や足にぶつかり転倒の危険がある。もちろんシングルであっても、ストロークやクロスで足先まで伸ばしきる、ターンで足首にしっかり付ける、などは基本ではあるのだが、後半疲れてきたりするとおざなりになってしまうことがある。

例えばピアノでいうと、ものすごく技巧的な曲を弾ける、速弾きができる、などは、確かに凄い。だが、本当に人を魅了できるのは、シンプルだが美しいパッセージを表情豊かに、柔らかく伸びやかに奏でられる、pp を響かせることだと思う。複雑で速いパッセージよりも単純なメロディのほうが、ffの連打よりもppの静けさの方が、弾き手の腕前の差が如実に現れる。高難度ジャンプや速いステップ、高々と掲げるリフトやスローなどは、見た目にも派手で、成功失敗が分かりやすく、その成否ばかりに目を奪われがちである。だがそれらは構成要素の一つに過ぎず、スケートの真価は、やはりスケーティングそのものにある。