とある少女との出会い

随分時間が経った。あえて隠すこともないかもしれない。
そう、いくつか指摘を受けたとおり、私は、、、公安、警視庁公安部勤務だ、、、、いや、、だった。もう昔の話だ。

まだ新米だった私は、当時建設大臣孫誘拐事件の秘匿捜査のため、とある寒村に派遣された。もうこの事件のことを記憶している人も多くないかもしれない。このことを思い出すたびに、その村でよく耳にしたひぐらしのなく声が聞こえてくるような気がする。この先を読むのは、そのなき声を聞き終えてからにしたほうがよいだろう。
出産を間近に控えた妻を東京に残し、突然の出張命令を受けたのは初夏の頃だった。東京から6時間はかかる山奥への秘匿捜査。ダム建設反対団体の当該誘拐事件への関与を調べるためだ。初めての子の出産に立ち会うことが難しくなったが、これも仕事だ、しょうがない。まだ男の子か女の子か確定していなかったが、私は女の子と直感していた。

だからであろうか。その寒村で出会った少女こそ、まさに私の理想とする姿だと、自分の子供が成長した姿に当てはめた。純粋無垢な笑顔、誰からも愛されるほほえましい姿、これこそ私の求める理想の少女像であった。

不思議と私は子供になつかれる。その子は初対面であった私にも「にぱー」というはちきれんばかりの笑顔を送り、私の袖をくいっと引っ張りながら歩いた。彼女と一緒にいるときは、自分が秘匿捜査で「敵地」に乗り込んでいるということさえ忘れさせた。

彼女が連れて行ってくれた高台の神社からの景色。それはまさに壮観であった。村を、村の自然を一望できる「一番のお気に入り」。そういって私にほほえんでくれた彼女は、そのときはまだ「彼女」であった。。。。「東京へ帰れ」突然の豹変。いや憑依。これからおこる悲惨な事件の予言、そして彼女自身に降りかかる「祟り」の予言。突然の出来事に、私は何が起こったのか即座には理解できなかった。

それが彼女の発したSOSのサインだったと気づくには、かなりの時間を要した。もう、遅かった。彼女は私に救いを求めた。でも私はそれに気づかず、、、、彼女を見殺しにした。。。

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誘拐事件自体は「解決」した。また、その後この村で起こった一連の悲惨な事件については、地元の刑事(すでに引退していたが)と共著にて本に記した。もう絶版になっているため入手困難かもしれないが、探せば見つかると思う。

その後私は公安の職を辞した。しかしあの少女の姿、眼差しは、一生消えることがない。