大屋先生の効力射

http://obiekt.seesaa.net/article/36100514.html#20070317013710

結構いい勢いで出先なのにデータベースが参照できる便利な世の中になったなあ(挨拶)。

林信吾氏は「個人を名指しした上でのコメントの内容が、この時点ですでに非合法すれすれになってきて」いるとお書きであるが、私が読んだ範囲ではそれに該当するようなものは見当たらない。やや懸念があるのは氏の犯罪歴に関する疑念の部分であり、これは通常人が知られることを望まないであろう情報なのでプライバシーに触れる可能性があるが、第一に「客観的な秘密」に該当するかどうかについて問題があり、第二に仮にプライバシー侵害にあたるとしてもそれは犯罪を構成しない。
というか林信吾氏は「非合法」というのが
(1) 刑事法上の「犯罪」であり、それは
 (a) 名誉毀損(230条)にあたるのか(その際には230条の2について留意ありたい)、
 (b) 侮辱罪(231条)にあたるのか、それとも
 (c) 脅迫罪などその他の類型にあたると言いたいのか、あるいは
(2) 民事上の不法行為を氏に対して構成する可能性があると主張しているのか、または
(3) 行政的な何らかの取締りの対象になる可能性があると主張しているのか、明確に示すべきであると思う(のだが林信吾氏にはそんなことできないだろうなあとは予測している)。なおその後の文章では(3)が示唆されているがその通り現時点ではなんら行政規制の対象にならないことが示されている。

確かに匿名発言をめぐる問題点も指摘されているがwhistleblowingの可能性などから擁護する意見も強いし(例としてはEFFの主張などを参照)、アメリカ連邦最高裁匿名で発言する権利が憲法第一修正の保護範囲に含まれると判示している。2ちゃんねる的な「匿名」と、同一性と帰責可能性が担保される「仮名」は区別して論じるべきだというのは私自身が繰り返し指摘しているポイントであるし、そもそも我々には複数の著書等において言論活動を展開している「林信吾」氏が戸籍上(あるいは住民登録上など)どのような「実名」を持つのか、そもそも同一の自然人に帰するのかなどについても知りようがないのだからそれも「仮名」のひとつであるに過ぎず、この点において林信吾氏がJSF氏に対して特権的な地位を主張するのはまったくの勘違いである。
さらに言うと、おそらく一連の議論を読んだ人の多くは(林信吾氏とは逆に)《仮名・匿名での言論が従来のメディアの特権性を覆して質の高い議論を提供できる可能性》を意識することにしかならんだろうなあというのがミソであり、それは何故かというとネットでの議論の質を下げるのは多く匿名性それ自体よりも《誤った信念を持ち続けるTrue Believerがその下で活動を続けられるから》なのであって、数多くの「善意の人々」が誤った方向に扇動されるのを避けるためには《林信吾氏のような True Believerに対抗する仕組みが重要》なのである。このことはおそらく氏の著書より若干権威があるだろうところの私の論文"Flaming, Balkanization, and "Burning-Up": The Modern Bandits Haunting the Internet"(出典略)にも書いておいたのでまじめにこの問題に取り組む気がある人は読むと良い。
まとめると問題は実名・仮名ではなくTrue Believerかどうかなので、それに対抗する手段としてのブログとか掲示板の有用性、というのがこの問題から読み取るべきポイントだと私自身は思うところである。

えらい長く書いてすいませんがこれから帰国でしばらく手が打てないからなので、どうぞお許しくださいな。
Posted by おおや@雷電 at 2007年03月17日 01:37